母さんの死を越えた今。もう怖いものはない。

「ねぇねぇ。夕霧花魁のとこの新造、元々器量が良かったのに最近の足抜け以来もっと綺麗になってない?」

「本当よねぇ。見世の若い衆は皆あの子に目を奪われてるよ」

朝霧が足抜けして以来、他の遊女の中でそんな話が
持ちきりだ。


朝霧からすれば憎まれ口を叩かれるよりはいくらかマシだが、自分の話題があちらこちらで聞こえるとなれば、落ち着かない。
姉さんにも相談したが笑われたあげく散々からかわれた。



朝霧の話題は見世の中だけではなく吉原中に知れ渡り、
皆口々にあの子はきっと歴代初の花魁になると言われるまでとなった。