その後村人が見つめる中一人で母さんを降ろし、川に流した。
墓なんて作れない。ましてや棺桶なんてものもない。
身一つで流れていく母さんを見えなくなるまで見つめた。
母さんは手紙と一緒に簪を送ってくれた。
母さんの形見はその簪だけ。
「帰らなくちゃ。…吉原に」
このまま母さんと死ぬっていう選択肢ももちろんあった。
けどあたしは逃げたくなかった。
吉原は地獄だけどあたしの帰る場所は吉原だけ。
用心棒の言っていた
「嫌でも思い知らせる。帰る場所はここしかねぇんだ」
の意味がよく分かった。
あたしはよろよろと来た道を戻り始めた。