「ただいまー」

いつもと変わらない玄関、


「あら、おかえりー。思ったりよ早かったわねー」

いつもと変わらない母さん。


「これがあなたのお母さんですか。
これからお世話になります、葵(あおい)です。
よろしくおねがいします。」


ただ一つ、いつもと変わっているのは、後ろで深々と頭を下げている幽霊少年。


って……


「いまさらっと自分の名前言った!?」

驚いて思わず振り返り叫んでしまう。


「言いましたよ?」

それとは対照的に、当然でしょう?とでもいうように幽霊少年は首をかしげる。


「ね、ねえ?羚?」

母さんが怪訝そうな顔でこっちを見る。


「なに?母さん、今大事な話してるんだけど」

話に割り込まれた俺はちょっとイラッとして、きつい言い方をした。


「じゃ、じゃあ、その大事な話してる相手は……誰?
もしかして、見えない何かがいるの?」


「やっぱりかー」

その答えは想定内だったようで、幽霊少年こと葵はそう呟く。


「やっぱり……って、母さんには見えないのか……?」


さらに母さんが気味の悪いものを見るような目でこちらを見る。


「ちょっとどうしちゃったの…?
まさかとは思うけど、ドラッグなんて始めてないでしょうね?最近荒れてると思ったらーー」


俺を薬物乱用者と勝手に決めつけ話し続ける。


「ちげぇし!なに人をラリってるみたいに言ってんだよっ!」

「じゃあ……なんなの?」

そんな不審そうな目で見るなよ……
こっちの方が怖いわ……


「だ、大丈夫だよ?気になるなら警察とかで調べてもらってもいいよ?」

声が震えるぜ……


「なーんか怪しいなぁー。しかもヤンキーしゃべりやめてるし」


……あ。


「まあ、ドラッグとか危険なやつじゃないならいっかー」


そういいながら居間にのんびり帰っていった。



適当な母さんでよかった……



「とりあえず、上がってよ、葵。」


葵の方に向き、部屋に案内しようとする。


「それはいいのですが、羚くん。後見てください。」

僕の後ろを指さす葵。


「あ?なに……」

言われる通り後ろを振り返ると……その指の示す先には………



居間のドアから覗く、影のある笑みを浮かべた母さんの姿が……



そして一言。



「変なこと始めたら、この家にはいさせないから………ねぇ?」