さゆりは暗い表情のまま話を続ける。


「あと半年ほど経ったら、私はもう結婚することはできないんです。」


「はぁ?どうしてさ・・・。
婚期を逃しただけじゃないのかい?」


「魔力がだんだん衰えてしまうんです。
つまりそれは・・・外敵が増えるということ。
そのまま暮らしていれば、殺されてしまうということです。

呪われた魔女の心臓を手に入れて神様に差し出せば神様は願いを1つかなえてくれるんです。
だから私は狙われます。
殺されるのがどうしても嫌なら、自分で洞窟に身をおいて自害するしかありません。」


「そんな・・・そんなこと。
で、君は僕のところまでやってきた目的は何なの?
たくさんの危険を抱えているのに、僕のところにやってきたのには何の理由があるんだ?」



「私のお婆様が人間になってあなたのご先祖様と結婚したというのをつきとめたんです!」


「じゃ、じゃあ・・・君は僕と血がつながっている?」


「いえ、血はつながっていません。
私は母の連れ子だから、お婆様とは・・・血のつながりはないの。

でも、すごく恩があるんです。」


「複雑そうだね。え~と・・・僕の家系図で過去がよくわからない女性は確かにひとりいるね。
僕からみると、ひいばあちゃんだ。
う~ん・・・年代は魔女の世界と比べたら合わないか・・・君が6万・・・もう何でもいいや。」


「私の母が私を連れて再婚したとき、私は一族になじめなくて・・・庭でひとりで泣いていたんです。
そんなときに、おばあちゃんが慰めてくれました。

みんなと違うっていうことを嘆いちゃダメ。
それは見方を変えればとてもステキなことなんだって。

何のことだか、そのときはわからなかった。
でも、おばあちゃんはそれから1年ほどして亡くなったの。
人間の手によって殺されて・・・。」


「えっ!!!」


「だけど、調べたらおばあちゃんは今の私と同じくらいの年齢のときに人間界へ行ったということがわかったの。
おばあちゃんはね、呪われていたの。
私と同じように、キスしたら相手がアヒルになってしまうっていう・・・。」


「あはははは・・・アヒルかぁ。
なかなか面白いなぁ。
それで君はカエルってメルヘンじゃないか・・・。
あ?・・・ごめん・・・。」


「殺した人間はおばあちゃんの心臓を神様へ捧げて願いをこめていったそうです。

『彼女を人間にして、僕のお嫁さんに下さい』って・・・。」


「ってことは僕のご先祖は、君のおばあちゃんと恋仲になったのか?」


「そうなの。それで先の見えた魔女をやめて、人間になったわ。
それからは日記からしかわからないけど、幸せだったって・・・。
人間の一生って100年もないんでしょ?
なのに幸せだって。」


「うん、100年も生きられる人すら少ないね。
けど・・・今のはいいお話だね。」