翌日から博仁は驚きの連続だった。

さゆりはまるで奥さんのように、かいがいしく自分の身の周りのことをやってくれるからだ。

最初はままごと気分が楽しいのかと思ったが、もう2週間がたつ・・・。


「さゆりさんの目的っていったい何なんだ?
もう、かれこれ2週間だ。
男の部屋で、それもこんな夫婦のまねごとみたいに・・・もう限界だ!
僕だって、健全な男なんだぞぉ。

生殺し生活しろっていうのか・・・。無理だ・・・もう絶対無理だ。」



「ご主人様~♪朝ごはんです。
しっかり食べていいお仕事してきてくださいね。」


「その前に・・・したいことがあるんだ。」


「何ですか?」


「だから・・・こういうことをね、したくて。」


博仁はさゆりの腕をつかんで自由をうばって、激しく口づけをした。



「うっ、うう・・・。や、やめて・・・だめ。
だめだったら。」


ボワ~~~~ン!!


「えっ!?何が起こったんだ?」


博仁が立っているところから、洗面所の鏡が見えていたはずなのに、見えなくなってしまった。

しかも、自分の視界はかなり低いものになっている。

いったい何が自分に起こったのだろう?


次の瞬間、さゆりが上から目線で博仁に頭を下げて謝っている。


「これは土下座だな?
でも、どうして僕は彼女を見上げているんだろう?」

そして自分の横にあったグラスの面を見た途端、固まるしかなかった。


「おいおい・・・ウソだろ?
僕がカエルになってるだとぉ。
マジか?これはもうもとにもどれないのか?」


「もどれるわ。あと10分ほどしたら・・・。
呪いなの。
私がここへやってきた理由もこのせいなの。

私、今のままでは結婚もできない。
キスした相手がみんなカエルになってしまったら、恋心も一瞬で覚めてしまうわ。」



さゆりの話を博仁は人間にもどってからじっくりきくことになった。

その日は急な発熱で仕事ができなくなってしまったと会社に連絡を入れて、博仁はさゆりのやってきた目的をききだした。



「私ね、愛情をこめてキスされると相手をカエルにしてしまうの。
本当に困ったことに、もう何人も何人も・・・カエルになって嫌われてしまうの。

でも、お嫁にいかなきゃいけない年齢にあと半年で・・・。」



「お嫁にたって、君はいったいいくつなんだ?
16くらいじゃないのかい?」


「いいえ、私はこれでも6万3千才くらいです。」


「ろ、ろくまん?うそだろ・・・そんなに生きられるわけないじゃないか。」


「私は魔女です。
魔法の国の時間では人間の世界よりも速く時が刻まれ、人間の女の子にしたら16,7才くらいに見えても魔女年齢としては6万3千年のときを過ごしてきたんです。

でも一族の掟で一族の中に魔の者以外と結婚した者がいると、ずっと呪いが伝わっていくんです。
私の一族も過去に人間と恋に落ちて出て行った者がいるんです。
だから誰が引くかもわからない貧乏くじを・・・私が引いてしまって。」


「それがキスしたら相手がカエルに?」


「はい。」