その日博仁は眠れなかった。


(博仁さんは優しい人・・・んなわけないだろ!
いきなり、魔女をぶっ殺して心臓ひっさげて神様の前に出るってことが怖くないやつなんかいるのか?

ご先祖さんさぁ・・・あんた好きな人をほんとに殺したのかい?
人間になって自分と必ず結婚してくれるっていう自信がそんなにあったのかい?

状況が知りたいよ・・・。
もしも、死体をつかんだだけで終わっちまうってこと考えなかったの?

このまま、さゆりさんとさよならしていいのかな・・・。
ダメだ!6万才になってもひとり身の彼女があと半年でなんて・・・無理だ。
しかもカエルだぞ。

そしたらさゆりさんは、だんだん魔力がなくなって・・・化け物に殺されてしまうか、自殺行為に・・・。
そんなこと絶対、ダメだ。)



翌日の朝、さゆりはいつものように味噌汁と和風な朝食を出してくれてニッコリしている。


「あの、博仁さん、私明日・・・帰ります。
だから今夜は2人だけで送別会ってことで。」


「えっ?そんな・・・もう少しいればいいのに・・・。
あっ・・・ごめん。
もう僕が引き止めることなんてできないのに。」



「いえ、うれしいです。
早く帰れ!って思われても仕方がないのに。
ほんとに博仁さんは優しい方ですね。」


「そんなことはない!
あ・・・仕事にいってくる。
送別会にはちゃんともどってくるから・・・それでいいよね。」


「はい。いってらっしゃい。」



博仁は通勤の途中で考えた。

(どうなっちゃったんだ・・・こんなに束縛されることを望んでしまうなんて。)


と、そんなとき通勤電車の中で女性の悲鳴がきこえてきた。


それもひとりではない。

次々に・・・女性が上着の裾やスカート、ズボンの大腿部分と・・・切られていったとのことだった。

そして、しばらくして隣の車両でも今度は女性だけではなく、男性も切られてけが人が続出していた。


(犯人はどこなんだ!)


結局、通勤で起こった事件の犯人はそのときにはわからないまま博仁は勤務時間となった。