放課後、有希はサッカークラブの練習をグラウンドのそばで見ていた。


哲也は、サッカークラブのエース。


有希に気づくと、なにかイタズラをしたくなり、足元にあったボールを有希に向けて蹴った。


哲也の頭の中では、おとなしい転校生がボールをぶつけられて泣き出すシーンが繰り広げられていた。


さすがにエースだけあって、ボールは正確に、有希の膝の辺りにかなりのスピードを伴って飛んできた。


しかし。

有希も、サッカー王国静岡の、サッカーチームでレギュラーにまでなった実力の持ち主。


華麗なトラップをこれみよがしに披露した後、哲也めがけて、哲也以上に容赦のないスピードで蹴り返した。


「イテっ」


――油断大敵。


エースともあろう者が、みすみすぶつけられてしまった。


しかも、みんなが見ている前で、おとなしそうな少女に。


驚いて有希に目をやると、有希は、ざまあみろ、とばかりにあっかんべえをしてみせた。


その目の裏の赤さと舌の赤さに。


哲也は、プライドをさらに傷つけられた気がしてならなかった。