「いや、新学期から新しい中学に通えるように、春休み中に引っ越すことになったんだ。
 6月なんて中途半端な時期よりその方がいいだろうって、会社がおまえたちのこと考えてくれたんだぞ」


入社20年――大作の愛社精神は相当なものであった。



「じゃあ、クラスのヤツらには黙って引っ越すのかよ。
 なんか、夜逃げしたって思われそう」


「それは大丈夫だ。
 友達には離任式の時に挨拶して、その後の土曜日――3日に引っ越すから」


「えー、あと10日もないじゃん。
 荷造りとか間に合うのかよ」


隆史は文句は言っているものの、引越し自体は受け入れているようだ。


しかし、有希は――。


「……だから私、言ったのに」


真顔で大作を見たその瞳から、


「私、行かないって、言ったのに――」


大粒の涙がこぼれた。



めったに見ることのない有希の涙に、3人は息をのんだ。



「……なにが、おまえたちのこと考えてくれた、だよ。
 私たちのこと考えてくれるんなら、引越しなんて――転校なんてさせないでよっ」


有希は泣き叫び、リビングを出て行った。