「どうにか大丈夫な領域まで逃げられたようです」
レヤーがそう告げたのは、どれくらい経ってからだったか。数十秒だったかもしれないし、数十分後のような気もする。それくらい必死で彼にしがみついてた。
ホッと息を吐いてすぐ、あたしはハッと気付いた。
「お城は……バルドやみんなはどうなってるの?」
そう言いながら視線を下へ向けて見えたものは……
赤く包まれるスマガラ城を中心として、ゆっくりと広がってゆく赤い霧。まだ帝都のすべてを覆ってはいないけど、確実にすべてを覆い尽くそうとしていた。
「これは……あの霧が国全体を覆えば、かなりまずいです。男性すべてが意のままになり、女性は倒れて最悪命を失う。いいえ……もしかするとこの大陸のみならず、惑星全体が奴らの思いのままになってしまうやもしれません」
“奴ら”……。
それは、今まであたし達を狙った【闇】の連中だけれど。
やっぱり……
アイカさんが、その一派だったということ?
信じられないけど、どこかで納得している自分もいて。心が揺れてこれからどうすれば良いのかがわからない。
「始まった……だが、ナゴム。どうするんだ? 戦うのか?」
ロゼッタさんの問いかけに、首を振るしかない。
「……わからない……わからないよ、あたしには」
アイカさんの笑顔。車中で気遣いおどけて笑わせてくれたこと……バルドの初恋の女性。なまじっか知ってしまっただけに、敵対したくない気持ちが湧いてしまう。
「……なら、しばらく様子を見ましょうか」
レヤーが気遣いそう言ってくれたけど。あたしはただごめんね、と謝るしかなかった。