ライネス皇子が出ていったことで、張りつめていた空気がわずかに緩む。
バルドはずっとあたしの目の前にいたから、ライネス皇子がどんな顔をしていたのかは途中でわからなくなってた。
ほう、と息を吐けば。バルドが身体を反転させてあたしを見下ろす。
「……――は?」
「え?」
小さい声でボソッと呟かれても、バルドの声は低めだからよく聞こえない。だからわからなくて訊き返せば、しばらく黙った後にまた呟いた。
「気分は、どうだ?」
「へ?」
訊かれたことが意外で目をぱちぱちと瞬いていると、手のひらが軋むほど強く手を握りしめられた。
「いたたっ! き、気分は大丈夫。体調も今のところ平気ってか……バルド、痛いってば!」
涙まで出てきたから、お返しにと彼の耳を引っ張ってあげた。しかも爪先を食い込ませて……バルドは無表情なまま、「やめろ」と言うけど。
……わずかに涙目になっているのを、このあたしが見逃すはずがありませんでしょう?
「ふふっ、バルドも耳には弱いんだね。これからお仕置きは耳をつねってあげようかな」
「ほう?」
あたしが笑いながらそう言うと……なぜかバルドから不穏な気配が漂い始めたのは気のせいでしょうか?
がっしり掴まれた手首は全然動かせませんよ。バルドは無表情から唇の端をわずかに上げる不敵な笑みをたたえて、あたしに黄金色の瞳を向ける。
「お仕置きか……なかなか楽しそうな響きだ。オレがいない間に知らぬ男と逢っていたおまえに、オレが罰を与えるにいい方法だな」
肉食獣のごときハンターとなったバルドは……
その後半日、あたしに“お仕置き”と称したセクハラをしてきて。息も絶え絶えにさせられましたよ……。



