「少し、うらやましいです」
セリスさんの寂しそうな声が聞こえたから目を開けば、彼は顔を伏せて焚火へと枝を放る。
パチッ、と火の中がはぜた。
「私には……何もない。何も憶えていないということは、過去が全て無にかえったということ……何もかもが無意味で、私が生きた証が失われたも同然です」
緑色の瞳が揺れているのは、揺らめく炎のせいか。それともセリスさんの心が揺れているせいか。
「私が帰ったところで、待っている人がいるかすらわからない。全てを失った無価値な人間を必要としてくれる方などいませんよね……」
パキン、とセリスさんは薪の枝を折る。苛立ちと悲しみと、どうしようもない虚無感。そんな彼の気持ちが、手にとるようにわかる。
確かに、記憶喪失だなんてめったにない。そのつらさはなってみた当人でないとわからないだろう。
だけど……
あたしはセリスさんのそばでしゃがむと、彼が持つ枝をポキンと折る。
そして地面の土を寄せ固めて小山を作ると、そこに枝を挿した。
「これ、砂や土の山を順番に削っていって棒を倒したら負けってゲームです。勝負しましょうか」
「は……はあ」
にっこり笑ったあたしに面食らったように、セリスさんは土の山を眺める。
「よし、ビギナーさんには先を譲ります。ささ、どうぞ始めてください」
あたしがやり方を教えると、セリスさんは恐々と土を両手で退ける。
「ふふ、甘いわね。和さまのテクニックを見よ!」
あたしは目をきら~んと輝かせ、気合いを込めて山を削りまくり……
結果、気迫がすごすぎてあっさり棒を倒した。



