死者はここに足を踏み入れた時に記憶を消される?
「それじゃあ……セリス王子は何も憶えてない上に、あたしを見ても誰かわからないってことだよね?」
「そうなるのう。ちなみに、和。そなたの記憶も奪われた状態じゃ。じゃから、互いに初対面の他人同士として再会することとなる」
あたしの何気ない呟きに、ヒスイがそんな答えを返してきた。
「記憶を封じるって……どれくらい? まさか赤ちゃんの頃から?」
「さて? わらわはそこまで解らぬ。受ける受けないは自由じゃぞ」
ヒスイはひらひらと扇を振って、あくまでも我関せずといった風情だけど。
そもそも、ヒスイはセリス王子の魂呼びに付き合う義理なんてこれっぽっちもない。あの夜ヒスイは自分の精一杯でセイレム王国を守ってくれたんだ。
今回のことだって、ここまで着いてきてくれただけでもありがたいと思わなきゃ。
セリス王子の死はあたしが一番の原因。彼をよみがえらせるのはあたしの意思だし、義務でもあると決めた。
「うん……そうだよね」
あたしはしばらく考えると、よし! と何度も頷いて白夜に告げた。
「……その条件、飲むわ」
《もしも失敗したならば、二度とあなたの記憶は戻りません。それでもよろしいですか?》
白夜は重ねてキツイ条件を突き付ける。
さすがに記憶をなくすという可能性に、尻込みしないと言ったら嘘になる。
……だけど。
あたしは、白夜をキッと見据えた。
「いい。もしも記憶をなくしても、構わない。すべてを失っても、庶民根性でしぶとく生きてやるから!」



