“あなたが死ねばよかったのに!”

“返して……わたくしのセリス殿下を返して!!”


きっと、この言葉に集約される。両親であるセリナと国王陛下は優しかったけれど、本音ではあたしをこう罵りたかったに違いない。

ただ、身分の高さや外交上の配慮から言えなかっただけで。


何も……解っていなかった。


あたしは、やっぱりばかだった。自分でも愚か過ぎて、笑いが込み上げてくる。


「は……はは……そう……だよね。あたしは……死ななきゃいけなかったのに……それなのに……なんでまだ生きてるんだろう?」


鈍色だった空から、ぽつりぽつりと雨が落ちだす。


あたしは……


激しくなりつつある雨を見上げながら、熱い滴をこぼす。


今だけ、彼のために泣いたっていいよね? あたしにはそんな資格もないんだから……。


冷たさを増した雨を感じながらそっと瞼を閉じる。


――覚悟は、決まってた。






半月ぶりに見る彼は、相変わらず侍従長のリヒトさんと忙しそうだった。窓の外から見える姿は変わらない。


あたしは、今からものすごく身勝手な“お願い”をする。


きっと、嫌われる。


けど……それで、いい。


初めから何の希望もない恋だったから。あたしには相応しい幕切れなのかもしれない。


ずぶ濡れなまま窓の外で佇んでいると、しばらくして黄金色の瞳がこちらへ向いた。すぐに窓が開かれ、怪訝そうな視線を感じた。


「何か用か?」


コクリ、とあたしは頷く。そして、あたしは唇を引き結んでから彼を見上げた。


「お願いします……どうか……あたしと、契約……してください……バルド」