「えっ……でも。あたし、本当に何の力もないんですけど? 無いものを利用しようとしても無駄なだけじゃ……」
「そう思われるのは無理からぬことでしょう。まだその力が発現しなければ」
セリス皇子はそう言うと、エークと喚ばれるダチョウ型の移動機を見上げてぽつりとひとりごちる。
「……誰だって、不安なものです。要求された期待に応えたい、でもその力が自分に備わっているかなど。よほどの自信家でない限りは、大丈夫と断言できなくて苦しむものではないでしょうか」
それは独り言のようでいて、あたしに聞かせているようで。自分にも言い聞かせているようにもみえた。
「この高速移動機は今でこそある程度普及してますが、開発当初は実現不可能と言われていたのです。動力の原理や設計の複雑さや部品調達の難しさで、たとえ100年掛けようが無理だと誰もが非難したものです」
セリス皇子はそっとエークの表明を手のひらでなぞり、話を続けた。
「開発者はいわゆる落ちこぼれ、落第者と言われた工学者でした。彼は片隅でコツコツと作り続け、毎日毎日試行錯誤を繰り返し……30年かけて遂に完成させたのです。それが、このエークの原型となった第一号でした」



