「和さん」
ピクッ、と肩が跳ねた。それ以上言葉を重ねるつもりはないのか、セリス王子からは次の熱意あることは出なかった。
「それだけ、召喚や移転という魔法は難しいのです。タイムスリップやトリップ……でしたか? そういったものは、簡単には行えません。ひとつの命の物理的原則すべてをねじ曲げ、関わりを断ちすべてを解放させるのですから。
ですから、母上があなたがいる“今”ではなく25年前という過去に現れたのは、召喚者が制御出来ずに失敗をしたからです」
「……え、ちょっと待って!」
あたしは勢いよく立ち上がると、セリス王子に詰め寄った。
「失敗? セリナは……巻き込まれた上に、失敗したから過去に飛ばされたの?」
「……はい」
さすがに母親の事情を話すのが辛いのか、セリス王子の顔が曇る。やっぱり……セリナはあたしが関わったせいで巻き込まれたんだ。その事実が重く胸に突き刺さる。
「……それだけ、召喚というものは難しいのです。おそらく、母はあなたと縁があったゆえに、脅しの材料として召喚されたのでしょう。ですが、失敗して父上のそばに移転したのは不幸中の幸いでした」
「なに……言ってるの?」
あたしは、信じられない思いでセリス王子を見た。彼はうっすらと微笑みながらも、苦しげに見える。
「母上の不幸を喜ぶような親不孝になりたくはありませんが、母上が父上と出会わなければわたくしはあなたに会えませんでしたから」
ほう、と息を吐いたセリス王子は話を続ける。
「母上のことはともかく、秋人という人物が百年前にディアン帝国の興った地に存在したことは確かです。我がセイレム王国の歴史書にも正式な記述がありますから」



