「父がディアン帝国を出たのは、宮廷に嫌気がさしたからなんだけど。それ以上に、大切な役割があったから。それを阻止されないためにセイレム王国に亡命したんだ」
「……役割?」
「おまえに、それを渡すことと。真実を伝えること」
ちょいちょい、と指先で卵の殻を撫でるハルト。鶏卵の大きさで真っ白な殻に茶色い斑があって、どう見ても鳥の卵にしか見えない。これがそんなに大切なものなの? 首を傾げながらも、これだけのために国を捨てさせた責任感でズシリと気分が重くなる。
「お、落ち込むなよ。これは勝手に父がしただけだし……俺もセイレム王国に帰化して、よかったと今は思ってんだから」
ハルトは慌ててタオルをあたしの顔に押し付けてくる。それで初めて自分が涙を流してると気付いた。
「汗くさい……」
「ったく、遠慮ねえなおまえ」
ガリガリと音が聞こえてくるから、彼が何をしているのかがわかって。あたしは鼻をスンと鳴らしながら笑った。
「それより、この卵って?」
「さぁな。俺が聞いたのは“何をしても壊れないし、あるべき場所に収まる。必要な時には目覚めるだろう”ってことだけだ」
「……目覚める? 何かモンスターの卵とかじゃ」
今まで散々間近に置いてて今さらだけど、ちょっとだけ怖くなった。



