コツン、と胸の辺りで微かに動く感触があって。あたしは一つ思い出した。
「……そういえば」
襟ぐりから手を入れて柔らかい布に包んだそれを取り出し、ハルトの前で布を開いてみせた。
「これ、ハルトがくれた卵……ずっと孵りそうな気配があるのに、全然孵化しないんだよね」
「お、持っててくれたんだな」
ハルトはあたしからその卵を受け取ると、指先で撫でてからすぐに返す。なんだか、懐かしむような顔になってた。
「あなたにとって大切なものじゃないの? なら、帰すけど」
あたしが気を遣って卵を差し出しても、ハルトは頭を振って片手を出しハッキリと断ってきた。
「いいや、それはあんたが持つべきものだ。俺がすべき一番の役割がそれだからな」
「……え?」
夜の訓練所は魔法の薄明かりで完全に暗闇じゃない。ディアン帝国の技術が使われたランプも灯ってる。そんな光を受けたハルトの顔は、どこか悟ったような落ち着きが見えた。
「俺の先代……つまり、父ちゃんはディアン帝国の皇子だったんだ」
「え、そうなの?」
初めて聞く話だけど、それならばハルトがライベルトさんと似てる説明がつく。従兄弟という血縁関係であるならなおさら。
「それで、ミッツ村でバルドがあなたに国を捨てたって言ってたの」
「よく憶えてたな、そんなの。正確に言えば捨てたのは父だけど。ま、俺もディアンに戻る気はサラサラねえし。捨てたって言えば捨てたな」
実は、3つくらいまでディアン帝国で暮らしてたんだけどね~とハルトはあっけらかんと笑った。



