異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。




「え?」

「いえ、何でもありません。治療しますので、ハンカチを取ります。申し訳ありませんが、スカートを少しだけ上げていてください」

「あ、はい」


一瞬、セリス王子の顔が曇った気がしたけど。彼はすぐに元の顔に戻してテキパキと行動する。
ドキドキしながらドレスをそっとつまみ上げ、足首が見えるギリギリのラインを死守した。

セリス王子はあっという間にハンカチを解くと、それをあたしの空いた左手に渡してきたけど。また、彼の動きが止まる。何かと不思議に思えば、彼の視線はあたしの左手に注がれてた。


「あっ」

(しまった……カイルに指輪を外してもらってなかった)


思わず声を上げてしまったことで、迂闊にも知らないふりが出来なくなった。


セリス王子の蒼い瞳が細められ、苦り切った顔になる。彼は言葉少なに「治療しましょう」とだけ言うと、そのまま魔法を使って治療を始める。


彼が指先で触れた部分から肌が熱くなり、スッと広がっていくごとに痛みが引いていく。腫れた部分も見る間に元に戻り、ほんの一分も絶たないうちに捻挫は完全に治った。


「……すごい」

「なにも不思議ではありません。人が本来持つ治癒能力を高めただけですから」


セリス王子はそれだけ説明すると、途端に押し黙る。何だか気まずい沈黙に、落ち着かない気分になってきた。