だけど、ヒスイはお母さんがこの村の巫女だったことを知ってた。なら、お母さんがこちらの人間ってことはたしかなんだ。
「……ヒスイは、お母さんをずっと知ってたの?」
《まあな。わらわは代々の巫女に受け継がれし宝玉。もとは大和の地にありしものじゃったが》
ヒスイは日本のどこかで発掘された翡翠だったのか……たぶん、秋人おじさん以前にやって来た日本人の手にあったんだろうな。
「それよりさ、やっぱりおかしいよ。祈る神様がなくてもこれだけ巫女だのなんだのを口にするなって言われるのと、誰もお母さんのことを知らないのが」
《そうじゃのう。ヒトミは確かにこの巫女じゃったが……住んでおった社(やしろ)は取り壊され、幾重にも封じられておった。それに……この地には、全体を覆う薄い闇がある》
「闇?」
《普通の人間には見えぬが、巫女であるそなたには感じられるはずじゃ》
「感じるって……いったい」
あたしが疑問に思いながら周りを見渡せば、ハッと気付いたことがあった。
日が落ちて村全体が薄暗くなったのは、山の影が落ちてだと思ってたけど。実際はそうじゃなかったことに。
山の影が村全体を覆えるほど、ミッツ村は狭い面積じゃない。あたしが影と思っていたものは、上空を覆う薄い霧のようなものだった。
「これ……って」
《厄介なものじゃ。この闇は人の意を操る。おそらく、この村におる限り……ヒトミを知ることはない。村人の記憶をなくし、ヒトミや神の存在を消したのもこの闇の仕業じゃ》



