サフィは先程侍女のアナスが運んできた果物の内から一つを手に取り、器用に口に放り込んだ。


「まぁ、また王女らしからぬことをなさなって…。」


投げた果物を口で受け止めたサフィが気に食わなかったのか、アナスはもともと眉間に入っていた深い皺をさらに濃くした。


「私は庶民に嫁いで平民になるの。これくらいしたって構わないでしょ?」


「またそんなことをおっしゃって…。父王が嘆かれますわ。ジャマル王国の第三王女であることに自覚を持ってくださいませ。」


理想を語るサフィに、アナスは溜息をつきながらそう返した。


ジャマル王国は雄大な自然と資源をもつ、この辺りでは一二を争う大国。他国を圧倒する兵力も有しており、その力はサヘル砂漠一と言われている。

そんな国の第三王女であるサフィは、当然の如く他国に嫁ぐために生まれてきた。