「サフィ様。本日は、サブール王国の王子 アーキル様がいらしておられます。」


「そう…。」


砂漠の国ジャマル王国の首都、サーダット。

その西方に、この国の主の住まう煌びやかな王宮がある。

その王宮の奥の奥にある一室で、そんな会話が交わされた。



「お会いになられますか?」


「いいえ。
私はまだ結婚するつもりなどありません。くれぐれも失礼のないようにお断りして。」


サフィと呼ばれた一人の少女は、艶やかな黒髪を耳にかけながらそう言葉を落とした。


「サフィ様…。お言葉ですが、あなた様もそろそろお年頃。
アーキル王子は我が国に並ぶ強国サブール王国の第一王子であらせられます。将来は国王になられるお方。一度お会いしてみてはいかがですか?」


「アナス。心配してくれるのは嬉しいけれど、私はまだ結婚などしたくないのよ。するにしても王族となんて絶対嫌だわ。」