千霧がそう思うのは仕方ないことだった。

側で見ていた皇は、自分の皇子の為に仕事を蔑ろになどしない人だ。


「千霧様、どうします?首を突っ込んでみますか?」


「当たり前だ!さっさとその王子を見つけ出して白王の政治を正す!」


「……御意に」


千霧は腹立ち紛れに、目の前に置かれた茶を一気に飲み干した。








昼間から既に薄暗い部屋に、小さく整った寝息が響いていた。

呉羽は、千霧の手入れの行き届いた滑らかな髪を指でとかしながら、寝顔を見つめていた。

部屋に通されると同時に、倒れるように眠りについてしまったのだから、だいぶ無理をしていたのだろう。

あの警戒心の強い皇子が、自分の横で、遊び疲れた子供のような顔をして眠っている。


「気付かなくてすみませんでした。……私はどうやら、人に疎いようですね」


愛しさにも似た感情をおぼえて、手を放す。


「私は貴方を護るためだけに存在する。でも貴方は違う。どんなに足掻こうと、私と貴方は違う──」


呉羽はため息をつくと、自分も目を閉じた。

隣で眠る千霧と同じ夢を望みながら。