睡恋─彩國演武─


「ねぇ、千霧はどうして、剣を取るの?」


頬に、氷のように冷たい手の感触を感じ、瞳孔が縮まる。

目の前にある、自分と瓜二つの顔に言葉を失った。


「……どうして?」


再び問われ、我に返る。


「守らなければならないものが、沢山あるから。それに、私が必要とされるなら、応えたいから──」


「そう……」


千霧の影だったものは、微笑すると瞬きの速さで姿を変えた。

頭上で結われた黒髪に、金色に輝く大きな瞳、細く白い手足。

少年なのか少女なのか。
どちらともつかない容姿。

全く違う見た目だが、千霧はいつしか自分の姿を重ねていた。


「私の名は月読(つくよみ)。この剣に宿りし者。望み通り我が月の力、お前に貸そう」


月読は無邪気に笑うと、千霧に顔を近付けた。


「お前を気に入ったから、特別だ」


そのまま月読は千霧に唇を重ねる。


ハッとして目を開けると、呉羽が千霧を支えていた。


「……やはり、貴方は素晴らしい方だ。月魂を鎮められた」


千霧は、いつの間にか宝剣を手に握り締めていた。


「月読……」


月魂は千霧の進むべき道を照らすかの如く、蒼く輝いていた。