「話は終わったかい?」
部屋を出ると、控えていた紫蓮が顔を出した。
「待たせてしまってすみません」
「気にしないの。僕が勝手に待ってたんだから」
「でも……」
本人はそう言うが。
なんだか申し訳なくなってうつむいてしまう。
そんな千霧の様子を見て、紫蓮は明らかな溜め息をついた。
普段しないその仕草に驚いて顔を上げる。
「……君はもっと我が儘になった方が良い」
「我が儘に、ですか?出来ません。私はそのように振る舞って良い立場ではありませんから……」
「それが駄目だって言ってるんだよ。じゃあ言い方を変える。君はもっと自由に生きなさい」
反論を許さない口調で言い切られ、口をつぐむ。
「王族のしがらみなんて、君には要らない」
まるで呟きのような言葉。
だけどそれは千霧に向けられた言葉で。
「……私は、ずっと皇子として生きてきました。それは変えられぬ事実。でも、できることならば」
言い募るが、その先は禁忌である気がして。
「……言って」
優しく声をかけられて、不安の紐がほどける。
「これからは、皇子ではなく、“千霧”として生きていきたい」
強い眼差しで、紫蓮を射る。
「……そう」
夕闇が、王宮の柱の影を通して二人を飲み込もうとしていた。
闇がじわり、じわりと息を潜めて押し寄せ、冷たい風が頬を掠める。
千霧と紫蓮は、どちらともなく黒く沈んだ空を見上げた。



