窓から落ちる光が、豊かな髪に反射している。

ほどかれたそれは朱の敷布に広がり、妖艶な輝きを放っていた。

少女とも少年ともつかないが、美しく均整のとれた肢体をくねらせ、二回大きな瞬きをする。

長い睫毛が、琥珀の瞳の上で跳ねた。


「……いつからそこに?」


数分前までは、部屋には千霧一人だった。

……でも、今はもう一人。


「少し前からです」


暗闇に銀の髪が揺れる。


「……そう」


眠っていたから、気付かなかった。

彼は、静かに笑う。


「よく眠っていらしたので、起こさない方が良いかと」


乱れた髪を直し、襟元を整える。

……肌は、あまり晒したくない。

雪と称される白さは、死人のようにさえ見える。


「……北とは何を意味しているか、わかる?」


やけ唐突な質問だが、千霧は真剣な瞳で呉羽の答えを待っていた。


「北ですか?……私の知る限りでは、そこは玄武が守護する方角ですね」


「……玄武が?」


「ええ。四聖はそれぞれ方角を守護し、東に青龍、西に白虎、南に朱雀、北に玄武とされています。……彩國で言うと朱陽は西ですから……」


「北は……白樹」


白樹は、陰から最も遠く、そして、最も日陰の国。

夢の少年は、白樹に居るのだろうか。