それを聞いて安心したかのように、千霧は呉羽の胸に倒れこんだ。

疲れたのだろうか、眠ってしまっている。

龍によって負わされた宿命は、まだ十六の千霧には重すぎるのだ。


「呉羽殿」


それまで涙をこらえていた皇が、千霧の顔を見た。


「今は……君がこの子を支えてくれているのか……」


「……はい。私もまた、千霧様と同じ宿命を持っておりますから」


「……龍の宿命か?」


「いいえ、龍を『護る』宿命でございます。私にとっての龍は千霧様。何年も前から、そう決まっておりますゆえ」


呉羽の言葉に、皇は頷いた。

その横顔は、淋しげで、先ほどの千霧の表情に重なった。


「ならば貴殿にも話さなければなるまい。私の犯した罪と、この子の過去を」


何かを決意した強い眼差しに、紫劉の揺るがない心を悟った。

彼は千霧の頬へ手を当てると、涙を流しながら呟いた。


「何年ぶりだろうな……お前の顔をしっかり見るのは。すまなかったな……たくさん苦しめた。お前は悪くなかったのに──…」


震える手で、いたわるように何度も何度も、紫劉は傷ついた千霧の頬を撫でた。


「お前は私の大事な子だ。お前の代わりなどいないんだ。だから、もう苦しまないでおくれ」


掠れた声は、千霧を想っている証。

子を想わない非常な皇の姿は。もう何処にもなかった。