「游蘭、なぜ紫蓮にこのようなことを……」
游蘭はただ静かに微笑んでいた。
「千霧を傷つけようとしたからですわ。私の大切なこの子を……」
愛しそうに自分の胸に手を当て、鼓動を確かめる。
そして静かに目線をあげる。
「私は人間ではいられなかった。龍と交わり、千霧を孕んだことで異形と化した。紫蓮を望まなければ、千霧は普通でいられたのに……」
第一皇子の紫蓮は、完璧な子だった。
けれど、それも龍の成したこと。
紫蓮は人の子だが、その能力は人ならぬもの。
「千霧はただ、犠牲になっただけ。龍と異形の間で生まれてしまっただけ」
游蘭の目から、一筋の涙がこぼれた。
千霧のものなのか、游蘭のものなのか。
「──すまぬ。游蘭」
皇の口から初めて聞く、謝罪の言葉だった。
皆が皇の取り乱した姿に呆気にとられているなか、游蘭と呉羽だけが冷静でいた。
「真実を全て、この子に話していただけますか……?」
「……必ず……、必ず話すと約束しよう」
涙声で必死に訴える紫劉に、游蘭が一瞬だけ優しく微笑んだ気がした。



