呼吸が、急に楽になった。
身体の中に何かが流れ込んでくる。
「げほっ……」
気持ち悪い。
目眩がして、吐き気がする。
(何?この感覚──…)
意識が、沈む。
暗い、暗い深淵へ。
「……!」
紫蓮は呉羽の背後にある池を見て、表情を変えた。
ほんの僅かに青ざめている。
「千霧様……!?」
視線の先に、異様な光景が広がっていた。
池の底がぽっかりと顔を出し、水が道を開けている。
通常ではありえない光景。
その中心には千霧の姿があった。
「もう覚醒してるのか……?」
紫蓮は視線をそのままに、不快そうに顔をしかめた。
千霧は、開いた道をただ真っ直ぐに歩いていた。
呉羽の声も、まったく耳に入らないといった様子で。
岸に足が着く頃には、水はまた元に戻り、道はすっかり池の底へ消えてしまった。



