呉羽が叫ぶのが、遠くで聞こえた。
あまりに唐突すぎる。
重たくなった身体は、思うように言うことをきいてくれない。
そのまま、後ろにあった池の中に倒れ込む。
大きな水しぶきと共に、千霧は池の中へ沈んだ。
言葉にならない想いが、水泡となって水面に波紋を作った。
呉羽が駆け寄るが、池は深く、すでに千霧の姿は見えない。
「貴方は異形……ですね?」
「そう、僕は異形だよ。紫蓮の中に、ずっと眠っていた。なかなか身体が思い通りにならなくて苦労したよ。くくっ……」
先程とは違う、冷酷な笑みを浮かべ、右腕を異形へと変化させた第一皇子がそこにいる。
呉羽は警戒しながら、一歩下がった。
「厄介ですね」
呉羽は口角をつり上げた。
それに反応するように、紫蓮は少し目を細めた。
──深い。
あと少ししたら、意識まで沈んでしまいそうだ。
待つのは“死”?
まだ、死んではならないのに。
『死にたくなければ、力を解放すればいい。私の可愛い蛟、眠るにはまだ早い』
何か、温かいものに包まれるような感覚と共に、その声がした。
ミズチ。確かにそう呼ばれた。
水を操る者。
そして、龍の名を示すもの。



