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夜半、小さな足音が自室に近付くのを珀は敏感に察した。
誰のものかはすぐ判る。
暗器の手入れを止め、窓の外を見つめる。
向かいにある癸火の部屋は、すでに明かりが落ちていた。
そうして足音の主を待っていれば、暫くして部屋の扉が控えめに叩かれた。
「入っていいぞ」
部屋の主から承諾を得た訪問者は、ゆっくりと扉を開けた。
「失礼致します。……良かった、お休み中だったらどうしようかと」
「癸火と違って子供じゃないからな」
訪ねてきたのは、予想通り千珠だった。
千珠は珀が絶対の信頼を寄せる者の一人だ。
そうでなければ、常に警戒心の強い皇子は部屋に上げたりしない。
珀が冗談を交えると、千珠も緊張が解けたように小さく微笑んだ。



