千珠は冷や汗を拭うと蒐に向かって微笑した。

陰の国は空気が重い。

この国に朝が無いのと関係しているのだろうか。

昼間と呼ばれる時刻は、既に橙色の夕闇にのまれている。


「蒐には感謝しないとな。ここに連れてきてくれて、ありがとう」


「否……」


蒐はすぐに顔を背ける。

視界が歪んだあの時。

千珠は暗い場所から誰かに呼び覚まされた。

そして、今まで自分を封じていた何かが消えるのを感じていた。

そして気がついた時には、蒐の腕を掴んでいたのだ。

「助けて」と繰り返しながら。

それから、混乱している千珠を見かねた彼に連れられ、陰の国へ来た。

ここは王都、紫闇。

珀と呼ばれる青年は、陰の第一皇子であり、絶対的な存在なのだ。