千霧は胸を押さえた。それと同時に、頭の中に声が響いた。 (タスケテ……) 「──あっ!」 ずしり、と頭が重くなる。 助けてと繰り返す声は次第に大きくなり、千霧は耐えきれず目を瞑った。 その時、世界が歪んだ。 「行かないと」 「──え?」 呉羽は千霧の顔を覗き込む。 すると千霧の瞳が、ギラギラと紅い光を帯びていた。 驚いて身を引くと、千霧は何も言わずに走り出し、あっという間に人混みに紛れてしまった。 呉羽はすぐに追いかけたが、そこにはすでに千霧の姿は無かった。