「朱陽へ帰って、おとなしくしていろと言いたいの?私は龍でありさえすれば、他はどうでも良いと……」
堪えられなくなって、じっと会話を聞いていた由良が立ち上がる。
「千霧様、違いますよ。二人は千霧様を心配して……。藍王子、あんまりなんじゃ……」
「孺子(こぞう)は黙ってな。千霧、僕達はアンタの為じゃない、彩國の為に戦ってるんだ。呉羽だって最初からそのつもりなんだよ。我儘きいて、彩國が滅んだら何も残らない」
淡々と藍は続けたが、由良は黙らなかった。
こんな会話は聞いていられない。
言われているのは自分ではないのに、なぜか悔しかった。
「俺は確かに孺子ですけど黙りませんよ!!俺は彩國とか龍とかじゃない、千霧様に仕えてるんです!」
「だったら相手を間違えてる。君が真に仕えるべきは僕のはずだよ」
「──っ」
痛いところを突かれ、由良は返す言葉を失ってしまった。
歯をくいしばり、興奮をなんとか抑える。
息の詰まりそうな空気のなか、呉羽がやっと答えた。
千霧は、呉羽を信じていた。
けして、藍の言葉を肯定しないと。
「千霧様、急いても状況は簡単には変わりません。どうか──」



