この『里津』という邑は、彩國の中でも少し特殊だった。 陽と陰の中立として存在し、どちらにも属さず、また、王を持たない。 そのため、陰の民も陽の民も行き交う場所である。 「里津の治安が乱れれば、やがてその乱れは陽や陰にも及ぶ。……いや、陽と陰が乱れた影響が、里津に出てしまったのかもしれないね」 「それほど、彩國全体が腐敗してきてるんでしょうか。……異形や、魔物が溢れたことで」 由良が千霧の指先を見つめながら呟く。 認めたくないことだが、問題が目に見えているのだから仕方ない。