睡恋─彩國演武─


笑顔を取り戻した天祢に、小さく微笑んだ後、立ち上がる。


他の仲間に軽く挨拶すると宴座敷を抜けて自室へ向かった。

できれば、自分の気が変わらないうちに廓を発ちたかった。

長く居れば、それだけこの場に未練が残る。

けれどまずは、皆が身体を癒すことが大事だ。

速足で廻廊を進みながら、藍は唇を噛んだ。


廊下の足音に気付いた千霧が、少しだけ戸を開け顔を出すと、ちょうど目の前に立って居た藍と目が合って後ずさる。


「みんな揃ってる?」


「揃ってる……けど、何かあったの?」


「別に。なーんにも?」


明るい調子で返事をし、藍は部屋へ踏み入る。

そこで鏡台から地図を取り出すと、台に広げた。

由良がそれを食い入るように見つめている。


「はい、注目」


トントン、と、ある一ヶ所を藍は人差し指でつついた。


「わかる?」


「……星麟でしょう?つまり此処」


呉羽が答えると、藍は頷きながら千霧に視線を流した。


「で、これから何処行くの?」


千霧は地図を覗き、数秒考えた後で指を置いた。


「青城……は通り過ぎてしまったけど、四聖の気は感じられない。月読も何も言わないってことは、もう陽の四宝に四聖は居ないってことだ」


「じゃあ陰へ?」


「うん……でもその前に国境の邑へ行こうと思う」


「国境っていうと、里津(りつ)?」

(待てよ……里津っていうと……)


「そう。陰に行く前に、色々と準備がいるじゃない。中立の邑なら、陰の様子を見ながら動けるし」


「里津かぁ……、でもさ、最近じゃあの辺も油断ならないよ。廓って色んな情報が入って来るけど、今は治安が乱れてるみたいだから」