睡恋─彩國演武─


「優しい音色ですね。──すごく安らぐっていうのかな」


風に当たりながら、由良は目を閉じる。


「そうですね──」


呉羽も一時、荷造りの手を止めた。









しばらくして、余韻を残したまま曲は終わった。

藍は娼年に胡弓を返し、名残惜しそうに微笑む。


「──またね」


視界の端に、泣いている天祢の姿が映って、胸が痛む。

弟のように可愛がっていたのだから、藍にとっても辛い別れだ。

藍は彼の所へ歩いていき、そっと頭を撫でた。


「何泣いてんの。ダメじゃん、強くならなきゃ」


「できませんっ。私は弱いんです。強くなんてなれない。姐さんの傍に居たい……!」


「天祢、天祢が泣くと一番辛いのは誰?」


天祢が顔を上げると、藍はぎゅっとその体を抱き締めた。


「姐……さ……」


「僕でしょう?僕だって我慢してるんだから」


寂しいのは最初だけ。

頼るものが無くなれば、自然と人は強くなれる。


「天祢は強い子だよ。僕が言うんだから、間違いじゃない」


落ち着いてきた天祢を離すと、天祢は藍を見つめた。


「アイ姐さん、姐さんの本当の名前を、教えてくれませんか?」


「良いよ。耳貸して?」


天祢の耳元まで唇を持っていくと、囁いた。


「藍。……白藍(ハク ラン)」


言い終え、唇に人差し指を当てると『内緒だよ』と囁いた。


「あ、これからは“姐さん”は無しだよ?」


「──はいっ」

(藍……兄さん)