アイの足を掴んでいるのは、水草などではない。
ねっとりとした粘液の絡まる、紅色の長い舌。
それがしっかりと絡まり、アイを泉に引き入れようとしていた。
「まずい!アタシの相剋を狙ってる──!」
アイの五行は、火。
火の相剋は水であり、水中では、力が無効化してしまう。
呉羽が抱き留めるが、相手の力が強く一緒に引きずられてしまう。
「このままじゃ……!」
二人とも落ちて、窒息させられる。
覚悟を決め、アイは落ちる寸前に呉羽を力いっぱい反対へ押し戻した。
大きな音と共に、アイの体は水面へ吸い込まれ、呉羽は押された衝撃で辛うじて攻撃を避けた。
水がアイの口や鼻に流れ込み、息苦しさから酸素を求めてもがいた。
(だめだ……届かない……)
半ば諦めたところで、視界の端に何かが映った。
ぼやけるそれに、僅かに残った希望をかけて手を伸ばす。
(黒い……曼珠沙華?)
指先が触れた瞬間、それは光を発し、眩しさにアイが目を瞑っていたほんの一瞬の間に、息が楽になった。
「げほっ……ごほ……っ」
目を開ければ、そこに泉はなく、アイは先程まで“泉があったであろう場所”の中心に座り込んでいた。
「アイ……?」
呉羽はアイの姿を見て言葉を失った。
水を吐き出して落ち着いたアイが気付くと、不機嫌そうに足元を指差した。
「──説明は後。早く助けてよ、こいつは『僕』の相剋なんだから」



