睡恋─彩國演武─


ふらふらと歩き出した呉羽を支えながら、アイは外へと向かった。

そこで朱雀の姿に戻り、呉羽を乗せると邸を離れた。


「アイは……由良のことは名前で呼ぶんですね」


「あまりまえじゃない。……アタシにとっての玄武は、おじいちゃんだけ」


「──そう、ですか。玄静殿も貴女を可愛がってましたからね……」


「そうね。アタシのこと誰よりもわかってくれたし、大事にしてくれた」


昔話に花を咲かせながら、呉羽が真下を見ると、小さな泉が見えた。


「あれは光泉(こうせん)。あそこの水なら、酔いがさめるはずよ」


アイはそのまま降下し、光泉のほとりへと降り立った。


「……白虎にもわかるでしょう?龍脈よ。──アタシたちが、龍が、護り続けているもの」


彩國には、龍脈という五行の通り道があり、それがまれに集まり、このような光の泉、光泉をつくりだすのだ。


「もう、光泉は稀少なものになってしまった。だって、異形の方が龍より強いもの」


呉羽が不快な顔をしたが、彼女は諦めたように呟いて、構わず前へ歩み出た。


「──本当の姿を映し出す光。白虎は、本当のアタシを憶えてる?」


泉の水を、両手ですくい上げるアイ。


(本当に、護ってきた結果がこれなら──)


水音が近くで聞こえたと思うと、呉羽の顔に飛沫が弾けた。


「アイ!」


珍しく声を上げた呉羽を面白がりながら笑っていると、不意に何かに足をとられた。

水草の類いが絡まったのかと思い、足元を見る。


「きゃあっ!?」


アイの短い悲鳴が響く。