「ごめんなさい……私、由良のことにちっとも目を向けてなかった」
「いいえ。かえって心配かけるほうが嫌ですから、大丈夫ですよ」
千霧の戸惑いをあたかも見切っていたように、その光景を傍観していたアイは薄紅色の唇で弧を描いた。
「さて……白虎はどこかな」
どうせ道に迷っているのだろうと、邸の中を歩き回ってみる。
すると、普段は使われていない部屋の並ぶ廊下で倒れている人影を見つけた。
「──白虎?」
近づいてみると、予想通り呉羽で、彼女は肩に腕をまわして自分よりもだいぶ大きな体を抱き起こした。
「もう、アンタなにやってんのよ!?」
少し揺さぶると彼は気が付いて、自分の力でふらふらと立ち上がった。
「ここに居るとどうにも……嗅覚が過敏になってしまって……。外の空気を吸おうと……」
「方向感覚まで変になってるのね──あ、お香のせい?酔って気持ち悪いんでしょ」
蒼白い顔で力なく頷く呉羽に、アイは「情けないわね」とため息をついた。
「でも仕方ないわ。アンタは虎だもん。あたりまえの反応かも」
「はは……面目ないです」
「匂いは染みついちゃってるし……龍は由良と居るから大丈夫だし、白虎、外に行かない?」
「……ええ」



