睡恋─彩國演武─


血相を変えた千霧を見て仰天したのは由良の方だった。

彼は大きな目をぱちくりさせながら唖然としていた。


「由良……熱を出したって聞いたけど……」


「そんな、たいしたことじゃないですよ。もう下がりましたし。……アイさんが看ててくれたみたいで──」


由良の治癒能力は完璧なものではなかった。

おそらくあれは、呉羽の予想とは違い玄武の力ではなく、彼の潜在能力なのだ。

だから、力を発揮するのに特定の条件がある。

まずは、彼自身の体調や環境。

由良は、自分自身が傷付いたり、気が弱ったりすれば力を使えない。

そしてもう一つ。

それは相手の気力の量。

彼の治癒能力は自らの“気”を相手に分け与えるというもの。

すなわち、相手の気力が弱っていたなら、彼が大量に気を送らなければならないので、治療は不可能。

最後に、もっとも決定的なこの能力の“欠陥”。

それは、彼自身の傷や病気を治すことは不可能だということ。

それは今までの条件を考えれば簡単に解ることだ。