睡恋─彩國演武─



「そう、病気よ。でもアタシには簡単に治す術がないの」

天祢は手をのばすと由良の額を撫でた。


「……アイ姐さんが、きっと治してくれます。──頑張って」

「天祢……」

「それでは、店番に戻りますね。失礼します」

「──アンタには、苦労かけるわね」

「いいんですよ。姐さんのことが好きでやってるんですから」


襖を閉める音と共に、それまでうなされていた由良が目を開けた。


「俺……」

(一瞬、空良の存在を感じたような……)


まだ虚ろな目をしている由良を心配して、アイは顔を近づけた。


「ぅわっ……!」


由良はすぐに紅くなって後退りする。

その様子に、アイは声をあげて笑った。


「ウブねぇ、アンタ。ここらじゃ珍しいわよ」

「なっ……!からかわないでください!」


「ふふっ。大声出さないの。はい、これ飲んで寝てなさい」


由良が元気を取り戻したことを確認すると、アイは薬と水を渡して部屋を出た。

──と、そこで千霧と鉢合わせする。


「あ……」


無意識に構える千霧に、アイは余裕の微笑みを返した。


「由良が熱をだして苦しんでたわ。お供の体調管理も、貴方の仕事じゃなくて?」


千霧は由良の名前を聞くと目の色を変え、アイに構わず彼のもとへ駆け寄った。