「ごめんね。アタシは、白虎や他の四聖とは違う。今の暮らしが気に入ってるから、龍には協力できないの」
アイは申し訳なさそうに告げたが、その口調の奥に秘められた強い意志を感じる。
返す言葉はなく、千霧は黙ってうなずいた。
「龍の傷はまだ完全に治ってないから、治るまでは此処を自由に使って。──龍の体は大切なんだから」
そう言い残して、アイは立ち上がると部屋を出た。
「わ、私、足が動くようになったから、外の空気を吸ってくるよ」
千霧も、呉羽に告げると部屋を後にする。
どうしても、昨晩のことを確かめたかった。
現(うつつ)なのか、夢(まぼろし)なのか。
向かったのは、彼と出会ったあの廻廊。
近づくにつれて、遠くから胡弓の音が響いてきた。
(この音は、もしかして……)
千霧は期待に胸を躍らせた。
手すりに座る人影。
澄んだ胡弓の音色。
「そこに居るのは、だぁれ?仔猫ちゃんかしら」
「──えっ!?」
振り向いたのは、アイだった。
絹糸のように細く、長い金色の髪を風に遊ばせ、アイはにっこりと微笑んだ。
その美しさに、思わず見惚れてしまう。
(アイさん……本当に綺麗な人だ……)
アイはそのまま、紅玉のように光り輝く瞳に千霧を捉えた。



