睡恋─彩國演武─


由良の顔にみるみる血の気が集まり、赤みが増す。


(……アイさんは……女の人なんだ……)


「あの、お水、こぼれちゃいますよ?」


少年は桶の水を不安そうに指差した。


「……え……っ……とと……うわぁ!?」


あわてて持ち直そうとするが、逆に手を滑らせて自分の方へとひっくり返してしまった。

由良の髪から顎を伝って、ぽたりと滴が足元へ落ちる。

不思議と、冷たいとは感じず、不思議に思った由良は目をぱちくりさせながら、点々と滴る滴を凝視していた。


「大丈夫ですか!?早く拭かないと……」


「……平気みたいです。すいません、お水の新しいの、貰えますか?」


由良がぎこちなく、苦笑いを浮かべると、少年も微笑んでから白い腕で桶を受け取った。

その時、由良はあることに気付いた。

少年の腕の白さより、更に白い包帯が手首からぐるぐると巻かれ、袖の中まで続いていた。


「お待たせしました〜」


すぐに少年が新しい水を汲み、先程のように桶を手渡す。


「……ありがとう」


「今度は気をつけて下さいね!」


その手首のことは気になったが、訊くのはやめた。

誰だって人に立ち入って欲しくないことがあるはずだ。

桶を受け取り、丁寧にお辞儀をすると、由良は早足で部屋へと戻った。