「王にはそうやって言われましたけど──」


納得のいかない表情で、ため息をつく由良と千霧。


「──まったくだ。白王って本当に……」


呉羽が困ったように笑いながら、言葉を繋げる。


「色惚け(いろぼけ)……ですね」


「そう!妾が多ければ子ができるって考えがまずおかしいんだ。白王の場合は女に目が眩みすぎている」


「千霧様の言う通りです!王子が出ていくのも頷けますね」


千霧達は相当に腹を立てているらしく、呉羽は黙って聞いているしかなかった。

あの後、白王を城まで送り届けてからすぐに白樹を発った。

あの場に居ると、まだ残っている脩蛇の妖気で、千霧に悪影響が出ると呉羽が判断したからだ。


「……そういえば、空良と由良って、いつから入れ替わっていたの?」


「白王と初めに対面した時ですよ。千霧様だけ連れていかれて、その後、由良がまともに術をかけられてしまったんです」


「……そうなんだ。じゃあ、あの時──」


千霧の居る牢へと、剣を返しに来た時。

あの時、空良は千霧に“窓の格子を壊して逃げろ”と言った。

だが、千霧は拒んだ。
呉羽と一緒でなければ逃げることはできない、と。


「空良は私を試していた──?」


もし一人で逃げようとしていたなら。

少しでも戸惑ったなら。

きっと空良は、千霧に由良を任せようとはしなかっただろう。