〔壱〕愛を知らず、哀を知る それは白樹が、緑に溢れていた頃の話。 「──ちちうえ……?」 白王を父と呼んだ少年の名は『藍(らん)』。 子供の居ない白王に見初められ、王室へ嫁いだ農民の娘の連れ子だった。 そして、後に王子となる存在。 「どうした、藍」 「母上が、泣いてる」 余り、言葉を発しない子供だった。 そして、やけに冷静で。 まるで物事を客観的に観察しているような。 「──そうか」 不思議な、子。