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重い軋みをあげながら、金の装飾を施された広間の扉が左右に開く。
「第二皇子……」
部屋の中央にいた青年は、千霧を一見するなりそう呟いた。
千霧は気にせず、上座の椅子へと腰かけると、青年に向かって微笑んだ。
「遠路、ご苦労様です」
彼は確かに不思議な青年だった。
頭から深く黒い外套を被り、全く表情が見えない。
「お気遣い、ありがとうございます」
それでも返ってきた声は、とても澄んでいた。
初めて聞いたはずなのに、なぜか懐かしい。
「名は何と?」
もしかしたら、この青年を自分は忘れているだけなのかもしれない、と思う。
何処かで会っていたのかもしれない、と。
「……呉羽(くれは)、と申します」
「呉羽、良い名前だ」
綺麗な、優しい名前。
けれど、知らない名。
それなら、この胸の奥につかえる何かは──?



