「舞。出発はまだだから、愛ちゃん遊んできていいわよ」


 俺は門扉の陰に隠れ、存在をないことにする。

 篠塚の恋人とか、三笠に告白しにきたクラスメイトとか、妙な誤解は生まれたい放題だ。


「十二時までには戻ってきてね」

「い、いいっ!」


 仲のいいお友達と最後になってしまうことに気を使ってくれているのだろうけど、三笠にとっては有難迷惑だ。


「大丈夫よ、お父さんとお母さんで残りはやっちゃうから。今日で最後なんだから、遠慮なんかしないで」


 おっとりとした笑顔で、庭に出て娘の迷惑に気づくよしもなく背中を押す。


「舞、行こう!」

「ほら、舞。愛ちゃんが呼んでるわよ」


 しぶしぶと、三笠が出てくる。

 行きたくないけれど、行かなければその理由を母親に聞かれてしまうだろう。

 それを答えることはもっと嫌なんだ。

 篠塚に、同性に、告白されたなんて。

 庭から回って門扉を出てきた三笠が俺と目が合い、気まずそうに逸らした。

 篠塚が庭の柵から離れて、こちらに走ってくる。