「篠塚、乗れ!」

「う、うん!」


 篠塚の住むマンションには、二十分で着いた。

 篠塚はちゃんと外に出て待っており、すぐに後ろに飛び乗った。

 目は赤く腫れていて、俺の肩をつかむ手に力が入っている。

 小刻みに震えているのは、寒いからではないだろう。

 時刻は十一時を回っている。

 間に合うだろうか。

 予定より少し早く出てしまうなんてことはないだろうか。

 不安に急かされて、自転車をこぐ。

 篠塚を置いて逃げた時よりももっと早く、力強く、篠塚を乗せて自転車を走らせる。

 お願いだから、間に合ってくれ。

 こんな宙ぶらりんのまま終わらせてしまうなんて、あんまりじゃないか。

 篠塚のために、俺は走る。