『稲葉……私、もう、どうしたらいいのか分かんないよ!』


 自室で受けた電話の向こうで、篠塚は泣いていた。


「どうした、なにがあったんだ?」


 その声に、恐れていた事態が起きたことを覚る。


『舞と、連絡取れなくなっちゃった。メルアド変えたみたいで……着信拒否された。引っ越し先の住所、後でメールで教えるねって、言ってたのに』


 怒りで手が震えた。

 三笠の奴、本気で篠塚と縁を切る気だ。

 このまま篠塚の存在をなかったことにして、全部終わらせる気だ。


『やっぱり、舞……私のこと、嫌いなんだ。告白なんかしたから……私のこと、き、気持ち悪いとか思ってるんだ!』


 しゃっくりを上げて悲鳴のように声を上げる篠塚に、思わず受話口から耳を話してしまう。


「落ち着けって! 三笠が何時に出発するか、知ってるか?」


 すぐにまた電話に顔を近づけ、声をかける。


『じゅっ、十二時って、言ってた……』


 しゃっくりを上げる返事に、腕時計を見ると十時半を過ぎたところだった。

 あと一時間半だ。


「今からチャリで迎えに行く。外に出て待ってろ、三笠に会いに行くぞ!」


 このままでは終わらせない。

 終わらせてやるもんか。

 絶対に、こんな形で終わらせることなんて認めない。

 篠塚の返事も聞かずに通話を切ると、ハンガーからコートをもぎ取り、袖を通す。


「出かけてくる! 母さんにも言っといて」


 何事かと襖から顔をのぞかせていた弟たちにそう告げると、部屋を飛び出していた。

 階段を半ばから飛び降り、玄関に置かれた鍵を引っつかむ。

 今なら確実に三笠は家にいる。

 会いに行くなら――決着をつけるなら、今しかない。