「部長が遅刻するわけにもいかないから、通してくれないか?」


 肩をがっしりつかまれていることに困惑しながら、やんわりと放すように注意する。

 だが、この階段を使わせるわけにはいかない。


「だ、ダメなんだよ、こっちは。こっちは……そう、ゴキブリが!」


 苦し紛れの発言に、俺の手を放そうとする動きが一瞬止まった。


「ゴキブリ……? 俺、ゴキブリ平気だから」


 本当に一瞬だけだった。

 俺はあっさり肩から手を外されて、青山はさっさと階段に向かってしまう。


「あー……」


 青山の背中に手をのばすが、引き止めるための言い訳が思いつかない。

 マズイ、どうしよう。

 しかし、俺がなにもしなくても、青山の歩みは再び中断することとなった。


「わっ!」


 青山の足を止めたのは、階段を駆け降りてきた三笠舞だった。

 青山に真正面からぶつかってしまい、しりもちをつく。